試験によって、アトランティックサーモンにおける亜鉛アミノ酸錯体の有用性が明らかに
クラウディア・シルヴァ博士
ジンプロコーポレーション
アトランティックサーモンにおけるウオジラミ感染は何世紀にもわたり発生しており、サーモン養殖業者は生産漁場で対応してきました。しかし、生産需要の高まりや、生理状態の悪化や薬剤処理に対する抵抗性などに関連した栄養状態の変化により、ウオジラミはサーモン養殖業界で生産上の大きな課題となっています。ウオジラミによる被害額は、世界の養殖業界全体で1年当たり約10億ドルにも登ると試算されています。
ウオジラミは、非常に活動的で攻撃的な外部寄生虫で、魚の皮膚粘液や血液、組織を摂取します。その結果、重度の皮膚病変に陥り、魚が外部感染を受けやすくなり、斃死してしまうこともあります。そのため、疾病抵抗性の高い育種開発や閉鎖養殖システム、掃除魚との混泳などの生物学的処置といった様々な対策法を単独、または組み合わせて試されてきました。また、抗ウオジラミワクチンが開発されましたが、商業養殖環境下での有効性はまだ確認出来ていません。
薬剤抵抗性を引き起こす可能性がある抗生物質や薬剤の使用を、世界的に削減する傾向にある中で、機能性飼料の開発が盛んに行われてきています。ウオジラミ感染に対応するために、優れた養殖管理と並行して、より自然で栄養価の高い解決策を取り入れるのが今回の戦略です。驚くべきことに、微量ミネラルは、免疫反応や疾病予防の調整において重要な生理的役割を果たします。微量ミネラルの中でも特に亜鉛は、全動物種おいて成長と発達に必須ですが、アトランティックサーモンの飼料中では制限される可能性があります。
亜鉛は、成長以外にも、特に免疫反応や疾病への抵抗性において有効に働きます(Gammoh and Rink, 2017)。亜鉛欠乏は、外傷の回復の遅れや、ヒレや皮膚のびらんに関係があると長年言われてきました (Ogino and Yang 1979, Hughes 1985)。皮膚の健全性の損傷は、養殖アトランティックサーモンでは一般的な問題で、特に銀化や海水へ移動する期間などのストレスのかかる条件下で多く見られます(Karlsen et al., 2018)。そして、それはウオジラミを含む感染への感受性を高めてしまう可能性があります。
感受性を低下させる効果的な方法を決定するために、ジンプロ社の亜鉛源と給与量がアトランティックサーモンの成長成績及びウオジラミへの抵抗性にどの様な影響を与えるのかを評価しました。
試験概要
試験はチリのキャリイペ水産研究センターで実施されました。約106gのアトランティックサーモンをタンクに移し(45匹/タンク)、60日間20%の魚粉を含む基礎飼料に以下を添加した試験飼料を給餌しました(表1)。
- 試験区1:硫酸亜鉛由来の亜鉛120ppm
- 試験区2:硫酸亜鉛由来の亜鉛60ppm + アベイラ亜鉛由来の亜鉛60ppm
- 試験区3:アベイラ亜鉛由来の亜鉛60ppm
60日の給餌期間後サケジラミ株(チリで最も問題になっているウオジラミ科)を用いてタンク毎に局所寄生させました。その後、ウオジラミが成虫になるまでの20日間の感染期間後、皮膚スコアを判定しました。
結果
60日の給餌期間後、最終重量及び瞬間成長率(SGR)、飼料要求率において処理区間で差がありました。
- 試験区3のアベイラ亜鉛を60ppm添加した区は、試験区1の硫酸亜鉛を120ppm添加した区と比較して最終重量とSGRが数値上高い値となりました。
- 試験区3のアベイラ亜鉛を60ppm添加した区は、試験区2のアベイラ亜鉛と硫酸亜鉛併用した場合と比較して、最終重量が有意に増加し、アベイラ亜鉛と硫酸亜鉛を併用することで、硫酸亜鉛添加と比較して、飼料要求率が有意に改善しました。
- 試験区3のアベイラ亜鉛を60ppm添加した区は、試験区1の硫酸亜鉛を120ppm添加した区と比較して、成ウオジラミ数が有意に減少しました。
有意差は認められませんでしたが(P > 0.05)皮膚損傷スコア評価から、試験区3のアベイラ亜鉛を60ppm添加した区と、試験区1の硫酸亜鉛を120ppm添加した区と比較して、皮膚の健全性において理想的な量であることが示唆されました。
試験から、亜鉛が外傷からの回復の役割を担っていることが分かりました(Jensen et al., 2015; Gerd et al., 2018; Ogino and Yang 1979; Hughes 1985)。
これらの研究結果から、アベイラ亜鉛由来の亜鉛アミノ酸錯体給与は、無機亜鉛給与と比較して、サーモンの成長成績とウオジラミへの抵抗性の向上においてより効果的であることが示唆されました。それにより、ウオジラミ治療にかかる費用を削減することが出来ます。サーモン飼料中に、亜鉛アミノ酸錯体単独または他の制限されている微量ミネラルと併用添加することによる、免疫反応の調整や疾病抵抗性へ果たす正確なメカニズムに関して、更なる研究が必要です。最後に、サーモンにおける微量ミネラルの給与推奨量は見直しが必要かもしれません。何故なら、魚粉から植物性タンパク質へと徐々に置き換えが進む中で、必須微量ミネラルの総量と利用可能性が大幅に制限されてきているからです。
ご質問、ご相談は弊社営業担当者までお問い合わせください。
引用文献
- Gammoh, N.Z. & L. Rink. 2017. Zinc in Infection and Inflammation. Nutrients 2017, 9, 624.
- Gerd, M.B., E., Sundh, H., Østbye, T.-K., Sveen, L., Sundell, K., A. & B. Ruyter 2018. Omega-3 fatty acids and zinc affect robustness and function of barrier tissues in Atlantic salmon Salmo salar. Book of Abstracts Aqua2018, August 25–29, 2018, Montpellier, France.
- Hughes, S.G. 1985. Nutritional eye diseases in salmonids: a review. Prog. Fish Cult., 47:81–85
- Jensen, L.B., Wahli, T., McGurk, C., Eriksen, T.B., A. Obach, Waagbø, R., Handler, A., & C. Tafalla. 2015. Effect of temperature and diet on wound healing in Atlantic salmon (Salmo salar L.). Fish Physiol. Biochem., 41:1527–1543.
- Karlsen, C., Ytteborg, E., Timmerhaus, G., Høst, V., Handeland, S., Jørgensen, S.M. & A. Krasnov. 2018. Atlantic salmon skin barrier functions gradually enhance after seawater Figure 3. Average Caligus abundance in salmon fed diets varying in zinc source and level for 60 days and challenged with Caligus for 20 days.
関連記事
表皮の健全性と回復力は、水産生物にとって疾病の発症予防に重要である。
ジンプロ・ミネラルを用いた、水産生物養殖時のストレス管理