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暑熱ストレスが肉牛の腸の健康状態に及ぼす影響

暑熱ストレスが肉牛の腸の健康状態に及ぼす影響

ダリル・クラインシュミット博士

ジンプロコーポレーション

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暑熱ストレスは様々な形で農場経営に影響を及ぼします。アメリカにおいて、暑熱ストレスによる経済損失は、酪農業界では1年間におよそ9億ドルに上り、肉牛および養豚業界においても、それぞれ3億ドルを超えると試算されています。

この試算を元に考えても、多くの農場で、牛体冷却システムを導入するために投資を行っていることは当然と言えます。しかしながら、牛体冷却システムの設置のみでは、この暑熱ストレスによる経営への影響を減少させることでは不十分かもしれません。

 

牛の体内では何が起こっているのか?

暑熱ストレスに苛まれると、牛の乾物摂取量が大きく減少します。これは、代謝熱の産生量を落とすためであると考えられます。暑熱ストレス下において、この飼料摂取量の減少は、牛の生産性低下の原因の一部に過ぎないかもしれません。

これ以外にも牛の体内では、暑熱ストレスに対応しようと、様々な変化が起こります。それは例えば、血流の変化や酸素とエネルギーの有効量の変化が挙げられます。

牛は暑熱ストレスを受けると、血管の走る胃や消化管、その他の主要な臓器から、血流を皮膚周辺へと集めることで、放熱を促進します。この結果、内臓組織への血流量が減少することで、運搬される酸素とエネルギーの量が減少します。これは小腸表面を覆う上皮層でも見られ、上皮細胞同士を繋げ合わせるタイトジャンクションと呼ばれる構造も弱体化します。この結果、病原菌や毒素が腸絨毛を通して血流へと侵入してしまいます。この状態を、リーキーガット症候群と呼びます。

 

亜鉛: タイトジャンクションのキーポイント

暑熱ストレスのような困難な環境下においても、タイトジャンクションを強固にして、腸の健全性を維持する上で、微量ミネラルの1つである亜鉛が重要な役割を果たすことが、いくつもの研究から判明してきています。給与する亜鉛の種類によって、リーキーガット症候群が緩和される度合いが異なることも、研究から示されています。

アメリカのアイオワ州立大学で、暑熱ストレスがどのようにリーキーガット症候群を引き起こすのか、そして、アベイラ亜鉛のようなジンプロ・ミネラルを肉牛に給与することで、いかにリーキーガット症候群の発生を緩和するかについての試験が行われました。

この試験では、試験開始時に、体重174kgのホルスタイン種の去勢雄牛40頭を、5つの試験区にランダムに振り分けました:

  • 試験区1 – 硫酸亜鉛由来の亜鉛75ppmを給与し、適温帯下で飼養
  • 試験区2 – 硫酸亜鉛由来の亜鉛75ppmを給与し、一般的な農場で見られるような暑熱サイクルを模した環境下で6日間飼養
  • 試験区3 – 硫酸亜鉛由来の亜鉛75ppmを給与し、適温帯下で飼養。この際、暑熱サイクル下で飼養した牛と等量になるよう採食量を制限
  • 試験区4、5 – 給与する亜鉛の内の40ppmをアベイラ亜鉛由来の亜鉛に置換して給与。試験区4では、暑熱サイクル下で6日間飼養。試験区5では適温帯下で飼養し、暑熱サイクル下で飼養した牛と等量になるよう採食量を制限

予測した通り、暑熱ストレスを受けた去勢雄牛は適温帯下で使用した牛に比べて、乾物摂取量が減少しました。しかしこの中でも、硫酸亜鉛を給与していた牛では、暑熱下では22.8%も飼料摂取量が減少したにも関わらず、アベイラ亜鉛を給与していた牛では14.9%の減少に留まりました。

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暑熱ストレス環境下の去勢雄牛では、適温帯下の牛に比べて直腸温度が高かったという結果が出ました。しかし、試験区4のアベイラ亜鉛を給与していた牛では、試験区2の硫酸亜鉛を給与していた牛に比べて、直腸温度の上昇幅が小さいことも判明しました。

暑熱下でアベイラ亜鉛を給与した去勢雄牛は、硫酸亜鉛を給与した牛と比較して、小腸の絨毛の高さが高く、幅が狭くなっていました。実はこの反応は、飼養した環境に関わらず、アベイラ亜鉛を給与した牛全てにおいて確認されました。この小腸の形態の改善は、アベイラ亜鉛が腸の透過性を緩和したという、栄養的なアプローチの有効性を説明するものになっているかと考えられます。

 

まとめ

暑熱ストレスは世界中の農場において、生産者が対応しなければならない問題であり、牛が暑熱ストレスによる影響を受けて問題が長期化することを防ぐために、暑い季節が来る前から対策を検討することが重要です。牛体冷却システムの導入のみでは、暑熱ストレスの影響を緩和するためには不十分である可能性があります。アベイラ亜鉛のような、効果的な微量ミネラル給与プログラムを併せて実践することで、暑熱ストレス下においても、牛のリーキーガット症候群の影響を軽度に抑えることができます。

暑熱ストレスの問題と、小腸への影響についての詳細については、ジンプロ社の著作物をご覧ください。肉用牛へのアベイラ亜鉛を含めた栄養給与プログラムのご質問、ご相談は弊社営業担当者までお問い合わせください。

 

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